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§ 僕は泣いてしまう § 


 五十、六十年代の音楽、いわゆるオールディーズからビートルズへ誘導してくれた幼なじみH君からダンボールいっぱいのビートルズ曲をカバーしたCDが送られて来た。ボーカル、ピアノ、ギター、フルオケ、オルゴールなどさまざま。アレンジもジャズっぽいもの、イージーリスニング風なもの、シンフォニー風のものなど。曲は「イエスタデイ」「ミッシェル」「レット・イット・ビー」「エリナ・リグビー」「ヘイ・ジュード」などは大抵のアルバムに入っている。

その中で、というか実はその段ボールの一足先に同じH君から紹介されたカバー曲盤が一番のお気に入りだ。ジョージ・マーティンがプロデュースしたコンピュレーションアルバム『イン・マイ・ライフ』。収録曲は「カム・トゥゲザー」「ア・デイ・ザ・ライフ」「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」など十三曲。中でも「ヒア・ゼア・・」「ビコーズ」「フレンズ・アンド・ラバーズ」が切なくなるくらいいい。終曲はショーン・コネリーの渋い詩の朗読付きの『イン・マイ・ライフ』だ。

その中の「ビコーズ」は、女性コーラス、ヴァイオリンと弦楽演奏だが、その詩は単純明快(もっともビートルズの詩はおおむね明快で原語でも十分詩として鑑賞できるのだが)。
Because the sky is blue, it makes me cry Because ths sky is blue.

「空が青いから、僕は泣いてしまう 空がこんなにも青いから」 

ビートルズが来日した一九六六年のころは大学の医局員だった。その夜ラジオで「ミスタームーンライト」に乗せて首都高速をビートルズが走っているのを聴いたことは褪せない記憶としてある。

 むろんその前からビートルズは聴いていて、表参道のカフェ「ペニーレイン」に通いつめた時期もある。ただ大学でオーケストラに属していたこともあり、そのころバイトで貯めたなけなしの金を全額つぎ込んでステレオセットを買ったため、しばらくは肝心のレコードを買い増す余裕がない時があったが、この間僕の中ではしっかりビートルズは根付いていた。

歌詞に、メロディーに、そのサウンドに、ずっとビートルズに魅せられて過ごす毎日である。

最近思い出したようにピアノに触れて、ついビートルズを弾きたくなるが、一音ごとに変化するコード進行にはとてもついていけない。それがビートルズの音楽を

魅力的なものにしているのだが。

ビートルズは聴くだけでいい。