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§ 旅・たびたび  §

 

 
私にとって『旅』が意味するものはひとえに日常性からの脱却である。だから実際に飛行機や電車に乗って外にでかけることだけが私の旅ではない。人はたとえば読書や芸術に接することで空想の旅を楽しむことができる。世の中全体が貧しく、自分の周りは輪をかけて貧しかった子ども時代はもっぱら貸し本やラジオが心の旅への誘いの役を果たしてくれた。脳裏に焼きついている情景が実はラジオを聞きながら自らが思い描いていた世界であったことにふと気付いて驚くことがある。実はそういう旅の方が豊かさの表象なのかもしれない。

                                
写真はドイツ・ローテンブルク
 

 
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