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                         「さようなら」        

最近とみに日本語の美しさを思うようになった。俳句の季語の「陽炎」「蜃気楼」「逃水」「空蝉」などは特に好きである。勿論美しい日本語は季語ばかりではない。思いつくままに言えば、「雨脚」などは源氏物語由来であろうし、雨つながりでいえば「雨催い」は英語のIt looks like rain を一言で表して余りある情緒を醸している。最近京都を旅していて夜の先斗町で「忍び山葵」を知った。「忍び包丁」の類で、日本料理の極意を見る思いがしたが、何と言ってもことばが絶妙だ。

そういった美しい日本語の代表格は「さようなら」ではないかと思う。「さようなら」の語源は「さようならば・・・いずれまた」と言ったところからきているらしいが、美しいと思うのは「イ段」が入らない「アオウアア」の明るい響きである。別れという悲しさもなければ厳しさの影すらないがどこか優しさを感じる。子どものころは学校で先生への挨拶はかならず「さようなら」であった。母親からきちんとご挨拶しなさいと言われるときは「こんにちは」と「さようなら」のことだった。

英語ならSee You 、ドイツ語ならAuf Wiedersehen、フランス語ならAu revoirかな?少し前アマゾンビデオで『ヒットラーに盗られたうさぎ』という映画を観た。ヒットラーが政権についた頃に子ども時代を過ごした少女が国を追われるたびにAuf WiedersehennAu revoirと友達に別れを告げ、See youの国に至る物語で、別れの言葉を象徴的に描いていた。

余談で映画の話になるが『大脱走』でドイツ人を装って逃げおおせると思った瞬間、ゲシュタポの追っ手にGood luckと言われてThank youと答えてしま場面があった。Good luckは日本語なら「元気でね」程度の意味だろうが相手を思いやる気持ちがあっていい言葉だ。

最近読んだ雑誌で「この頃さようならを聞くことが少なくなった、東京オリンピックの閉会式にSAYONARAと電光で示されて以来海外から来た人がなぜ日本人はさようならと言わないのか不思議がる」という記事を読んで共感するところがあった。では人と別れるときにさようならと言わずに何と言っているか?「じゃあね」、女の子なら「バイバイ」辺りか?味気ないと思う。

最後にまた映画になるが小津安二郎の名作『東京物語』には「ありがとう」と並んで「さようなら」がたびたび出てくる。周吉の喪のあと次女京子(香川京子)と戦死した次男の妻紀子(原節子)との間に何回も交わされる「さようなら」はやさしさとせつなさとが織りまざった印象深い「さようなら」だ

明日誰かに言ってみようと思う。「さようなら」

 

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